<月刊AMI>2012年2月号 Vol.127 ■△▽●○□


1.「疾風に勁草を知る」


 今月は故事諺にある「疾風知勁草」という言葉をご紹介します。
日本語的には「疾風に勁草を知る」と読みますが、本来は中国の古典である後漢書の王覇伝に書かれているものです。
辞書では

《「後漢書」王覇伝から》
激しい風が吹いてはじめて丈夫な草が見分けられる。
苦難にあってはじめて、その人の節操の堅さや意志の強さがわかるということ。

と書いてあります。

 歴史的な概略は、漢王朝は紀元前206年から紀元220年までの約400年にわたる王朝ですが、
14代孺子嬰の時に王莽(おうもう)に負けて(前漢)は一度滅びましたが、16代光武帝が再興して後漢をとなったのです。
この光武帝の再興事業を支えた雲台28將と呼ばれる功臣団がいるのですが、
その23番目の序列に王覇(おうは)がいるのです。
この王覇という人を書いた「後漢書」王覇伝の中に「疾風に勁草を知る」が出て来るのです。

 この王覇という人は潁川(今の河南省)の潁陽というところで地方役人の下っ端役人を父にもち、
獄吏という役人なっていたのですが、「俺はこんな器ではない」と慷慨して仕事を楽しまずにいたのです。
父がその才を見て、西にある長安で学ばせたという逸話のある若者です。
この頃に光武帝を知るようになり、その後、郷里の潁陽に戻っていたのです。

 後漢の始祖となる光武帝が劉秀(りょうしゅう)と名乗っていた時に兵を起して潁陽(えいよう)を通過した時に、この王覇が「私は威徳を慕っている」と言って軍列に入りたいと願い出たのです。
劉秀(光武帝)が「君のような憂国の賢士が現れぬかと夢にまで思っていた」と歓迎し、その軍は昆陽で王尋(おうじん)と王邑(おうおう)を下し、王覇は一端帰国して時を待ったのです。

 その後、中央の役人に返り咲いた劉秀(光武帝)が、もう一度進軍した時に再度参軍して洛陽(河南省の西部)に到達し、劉秀が大将となって、王覇も高官と出世して、河北攻略に従軍したのです。
王覇に従っていた賓客が数十人いたが、困難な河北攻略に客たちは次第に離れて、ついに王覇一人となったのです。
この時、劉秀が「潁川から私に従って来た者は皆去っていき、今ではお前一人となった。善く努めよ。困難の中にこそ、その人間の本質というものが輝くのだ」と言った、これが「疾風に勁草を知る」という元になったものです。

 私は、最初は辞書的な「疾風」は「速く激しく吹く風」のことであり、「勁草」(ケイソウ)は「風雪に耐える強い草。また、思想・節操の堅固なたとえ。」という意味と単純に受け止めていたのですが、故事には深い意味があるものです。
この王覇伝から考えると若い人に小さな仕事を与えた時に、それを淡々とこなす人と「おれはこんな仕事は嫌だ」とふて腐る人との差があると考えます。
大きな器の若者を見抜くのは難しいですが、その主張を有言実行できる人に育てる事が重要なのです。
「出る杭は打たれる」ではダメなのです。「出る杭を育てる」なのです。

 若い人は、未体験なことにチャレンジするのですが、何事もチャレンジである限り「壁」が立ちはだかるのです。
どんな状況下であっても、何度もくじけずにアタックしたり、あるいは工夫を凝らしたりして「壁」を突破する意志の強さが尊いのです。
まさに「勁草」と言えるのです。
トヨタの改善を教えて下さった鍔本先生は、「知識人は不要で、工夫する智恵者が必要な人物だ」とおっしゃっていました。
「現実は意識よりもはるかに深くて広い」という言葉があるのですが、「知識」は断片に過ぎず、何かをしようとするとその「知識」を活かして何度も工夫して壁を突破する必要があるのです。
これを「知識・経験・根性」の3要素が備わった人と言っています。
おうおうにして「知識」のある人は評論家的な発言するのですが、実際にさせてみると壁にぶつかって歯が立たずにすごすごと尻尾を巻くのです。
これでは「知識」は「百害あって一利なし」の状態なのです。
むしろ、「知識」などない方がよいかも知れないのです。

 私は、2012年の経済を展望すると、まさに「疾風」の時代と思います。
このような時に、「俺(私)はこうしたい」と有言実行できる人物の出現が望まれるのです。
真の「勁草」という人材の登場が望まれ、その逸材を育てることが重要と思っています。
2。「さいごに」
 「勁草」の人と言うと何か特別な人のように思いますが、実は、身の回りにいるのです。
特に、若い人の前向きな「ぼやき」を大切にする必要があります。
彼らは「未来」を見ているのですから、我々のような年齢になったものは、それを実現する助言や助力を惜しまないようにしたいのです。
「未来」を切り開くには、例えば、今ではWebなどのIT技術も一つのツールになると思います。
それらの技術導入を支援する事が重要と思っています。


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