| <月刊AMI>2010年5月号 Vol.106 ■△▽●○□
 1.「賈」という事
 
 
 
経営学者の故P・F・ドラッカー先生の経営学が見直されています。私は、専門家ではないのですが、印象に残っている言葉をご紹介しますと
 
 「ビジネスの目的の正当な定義はただひとつ。顧客を作り出すことである。」
 「ビジネスには2つの機能しかない。マーケティングとイノベーションである。」
 
 の2つです。
 それぞれのキーワードから「顧客創造」と「マーケティング」・「イノベーション」と3つの言葉が浮かび出ます。
 
 まず、「顧客創造」ですが、これも定義が難しいものです。そもそも「顧客」って、どういう意味でしょうか?
 辞書では「ひいきにしてくれる客。得意客。」とあります。
 「ひいきにしてくれる客」とは、私が新人教育の時に「リピート客で、かつ、紹介してくれる客」という風に教えられました。
 「君から買う」のか「貴社から買う」のでは、「ひいき」の意味合いが違ってきます。
 営業冥利という点では「君から買う」方がよりベターと言えます。
 
 次は、「マーケティング」と「イノベーション」なのですが、それぞれ意味深いものがあります。
 マーケティングは、市場調査から製品企画・開発・販売促進・販売とつながる一連の流れを指します。
 イノベーションは、技術的な革新、サービス方法の革新、人材育成の革新などいろんな面の革新を含まれるものです。
 
 会社のマーケット・ポジションに関らず、このドラッカー先生の言葉は重要な意味があり、それぞれの「やり方」で実践する必要があるのです。
 上流に位置するメーカーは、製品をつくるので、この辺のことをシッカリと把握して経営されているのですが、中流の卸売業、下流の販売業へ向かうほどドラッカー先生の後半の2機能が曖昧になってくるのです。
 
 最近、「逆流」という言葉が話題になっていますが、販売業も卸売業も顧客に向かって「売る」という意識ばかりではなく、逆にメーカーの立場で「商品」そのものを真剣に考える必要があるのです。
 一般品と呼ばれるような、どのメーカーのものでも大差のない商品をメインにするならば、資金力で「価格破壊」を起して競争優位を築く事ができるのですが、ちょっと価値のある商品、例えば、マクドナルドのビッグ・アメリカン・バーガーやロッテリアのえびバーガーのような価格はある程度高いが、肉質やえびのプリプリ感を訴求する事でヒットしたように、本来的に「差異化」する商品は「付加価値」を訴求する必要があるのです。
 
 この事は、工業品でも同じだと思います。
 昔の字では、「売」は「賈」と書きました。
 これは、「買」という字に、「一から十」を載せているのです。
 「買」の「貝」はお金を意味しており、お金を持って買いに行くという事を表しているのです。
 「賈」は、その買う人に「一から十の知識」をもって接することで「売れる」という事を意味しているのです。
 とかく「価格」の要因をとりあげるのですが、本当の意味でお客様に「一から十の知識」を持って接しているだろうかと疑問に思うのです。
 工業品の場合、お客様は、自分の専門分野についてはプロの知識と経験を持っておられるのです。
 そのプロの知識と経験をもつお客様を満足させる「一から十の知識」が求められるのです。
 もちろん、商品知識は必須ですが、その導入事例や関連の知識が必要になるのです。
 関連の知識には、ベースとなる素材や加工法などの知識とその提供者なども含まれるのです。
 
 今後の発展のために課題となるのは、このような高度な知識と経験を蓄積し共有化する事なのです。
 特殊品の成功事例や失敗した事例は、社内で共有化する方が望ましいのです。
 失敗から学ぶことが大切なのです。
 社内勉強会は、今のところメーカーからの商品知識がメインと思いますが、今後は、このような事例やベースとなる材料や加工および関連のメーカーなどをテーマに取り上げた勉強会が望まれます。
 「賈」=「一から十」+「買」なのです。
 ぜひ、実践の方をお願いします。
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